「日本のしつけは衰退していると思いますか?」
この質問にどう答えますか? 何かにつけて教育が問題視される昨今においては、多くの人が「日本ではしつけが衰えてきた」とお考えではないでしょうか。
しかし、この論調に真っ向から切り込む教育研究者がいらっしゃいます。南山大学助教授、東京大学助教授を経て、現在は日本大学文理学部教授の広田照幸氏です。膨大な資料に基づき、先生は「昔の日本は家庭教育が素晴らしかった」という主張が、ただのイメージに過ぎないことを解き明かしてくれています。
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当時のしつけは、職業的なものだった
そもそも日本で全国民を対象とした学校制度が生まれるのは、明治維新後です。それまで学校に行かせる義務もなく、大半の子どもは両親の仕事を家で手伝うのが当たり前でした。
その際、職業的な基本としてのしつけは受けました。たとえば、農作業を終えたときはすぐに鍬や鋤などの道具についた土を落とすといったように。そうするのは、道具の錆を防ぐためです。こういったことが当時の「しつけ」ですから、現代のものとは全くまったく異なります。
では、現代でいう「しつけ」らしい挨拶などの礼儀作法は誰が教えていたのでしょうか。それは地域の大人たちでした。祖父母をはじめ、現代でいうところの町内会や青年会などといったものと考えると、イメージしやすいかもしれません。つまり、当時子どもの教育の責任者は、親だけではないのがスタンダードだったのです。
むしろ、教育の責任を親だけがあからさまに追及されるようになってきたのは、第二次世界大戦後しばらくしてからのこと。1950年代に「教育ママ」などといった表現が出てきた現象などはその典型的なものでしょう。
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しつけが衰退したのではなく、社会の見る目が厳しくなった
長い歴史的のうえではつい最近にすぎないのです。日本はしつけが衰退したのではなく、しつけを見る「社会の目」が厳しくなっただけであることは明らかです。
では、家庭教育を担わざるをえない現代の親はどうすればいいのでしょうか? まず、子どもの教育が家庭内だけで完結することはないのだと知っておいてください。お子さんが「思い通りに育たない」責任が親だけに求められること自体に限界があるのです。
だからこそ、家族に限らず、学校や公的なサービスなどの力も借りてください。行政では手が届かない役割を担うNPOや市民団体など、さまざまなコミュニティも現代では存在します。ある知り合いは、複数人の自営業者が集まって、子どもたちを預け合っています。シェアオフィスに子どもを連れて来られるような場所もできつつあります。
教育は、自分たちだけでなんとかしようと抱え込むべきものではないことを知っておいてください。