物事をやりぬく力、自制心―生きていくうえで非常に重要なこれらの力。
こういった、知能ではなく人間性に起因する能力は「非認知能力」と呼ばれており、近年、脳科学や心理学の分野で大きな注目を集めています。
「非認知能力の重要性」についてご紹介した『子どもを社会で活躍できる子に!注目の「非認知能力」って知っていますか?【前編】』に続き、後編となる今回は、非認知能力を伸ばすために家庭で実践できることをご紹介します。
まずは前編で説明した「非認知能力」についておさらいをしておきましょう。
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非認知能力とは?
「非認知能力」とは、知識や計算力といった学力ではなく、「忍耐力・自制心・やり抜く力」といった数値化できない能力を指しています。
かつて、アメリカでは認知能力至上主義とも言える教育方針のもと、高い学力を身に付けてきました。その結果、それらの教育を受けてきた生徒たちはトップレベルの高校へ進学することができたのです。
しかし、その後大学へ進学するも無事に大学課程を修了できたのはわずか21%という驚きの結果。修了できなかった生徒の多くは、自分ひとりでどうやって学習をすればよいのか分からなかったのです。
これは、まさに「やり抜く力」である非認知能力の欠如と言えるでしょう。
近年、非認知能力は子どもの将来に大きく影響すると言われており、「忍耐力」や「自制心」などの非認知能力を伸ばすための教育が注目されています。
適度な楽観主義は、失敗にくじけず粘り強く物事をやりぬく力につながる
非認知能力のひとつとしてあげられる、「物事をやりぬく力」。この能力に長けている人は、適度な楽観主義者であることが多いといわれています。
ペンシルベニア大学の心理学者であるマーティン・セリグマンは、著書『オプティミストはなぜ成功するか』の中で、「悲観主義者は、イヤなことやつらいことに直面したときに、それを永続的なもの、個人的なもの、全面的なものとしてとらえがちである」と、述べています。
たとえば、異性を食事に誘ったものの断られてしまった。このような状況で、悲観主義者の人は「自分に魅力がないから断られたんだ。」「他の人をさそってもどうせダメだろう、だって自分には魅力がないんだから。」などと考え、落ち込んでしまいます。
これに対して楽観主義者の人の場合は、よくない出来事の原因をもっと短期的で対人的、限定的なものとしてとらえます。つまり、「その日、都合が悪かったんだろう。」とか、「自分は相手のタイプではなかったんだろう。」というような具合に。
このような考え方の差異は、両者の人生に大きな違いをもたらします。何か失敗をしたとき、立ち直って次のステップに進めるか、そこでつまずいてしまうか。
大切なのは、悲観主義者の思考パターンに陥らないこと。そして、適度な楽観主義を身につけ、失敗を乗り越えて、次に進める力を養うことです。
・家庭で実践できること
そのために、ご家庭で気をつけていただきたいのは、お子さんへの声かけの仕方。
たとえば、お子さんがテストで悪い点をとったとき。「あなたはどうしてこんな問題もできないの?」「あなたは勉強が苦手なんだね。」というように、失敗の原因がお子さんの資質にあるようなしかり方はNGです。
「ケアレスミスが多いから、もっと慎重に問題を読もうね。」「テスト前日にテレビを見るのはやめようね。」といったように、失敗から学び、次に活かせるアドバイスをしてあげましょう。
過度の楽観主義はよくありませんが、一度の失敗に立ちどまらず、すぐに立ちなおってまた挑戦できる「適度な楽観主義」、つまり、「前を向ける力」を育むことが大切です。
子どもの自主性をうながすことが、自制心を育む
もうひとつの非認知能力としてあげられるのが、「自制心」。
「自制心」とは、自分自身の感情や欲望をコントロールする力のこと。さまざまな研究によって、幼いうちに自制心をやしなうことが子どもの将来によい影響を与えるとわかっています。
子どもの自制心に関する研究の中でも特に有名なのが、「マシュマロ・テスト」。これは、1960年代後半から1970年代前半にかけてスタンフォード大学で行われた実験です。この実験では、4歳の子ども186人を対象に、幼少期の自制心と大人になってからの社会的成果の関連性が調査されました。
被験者である4歳の子どもの前にマシュマロを置き、「食べるのを15分我慢できたらマシュマロをもう1個あげる。我慢できなくなったらベルを鳴らしてね。」と伝え、ひとりにします。子どもたちは、目を手で隠してマシュマロを見ないようにしたり、歌をうたったり、さまざまな方法で誘惑に抵抗しましたが、最後まで我慢し、2個目のマシュマロを手にした子どもは全体の3分の1程度でした。
この実験では、その後、約20年にわたり、被験者の子どもたちが大人になるまでの追跡調査が行われました。その結果、目の前にあるマシュマロを我慢できた子どもと我慢できなかった子どもの間には、学力や年収、社会的地位などに大きな差異が生じることが判明したのです。
この結果からいえるのは、自制心の高い子どもほど、さまざまな課題をこなしたり自身の能力をみがいたりできる資質を持っているということです。つまり、自制心の高い子どもほど、大人になって社会で活躍する可能性が高いといえます。
とはいえ、「自制心を強く持つ」というのは簡単なことではありません。
たとえば、「明日はテストだから見たいテレビを我慢する。」「宿題があるからゲームをやめる。」
小さな子どもにどうやって自分を律する術(すべ)を教えればいいのでしょうか。
・家庭で実践できること
その答えのひとつとして、「親との適度な距離が重要である」という見解があります。
マシュマロ・テストを行ったスタンフォード大学のウォルター・ミッシェルの著書『マシュマロ・テスト』では、子どもに対する親の干渉の程度が子どもの自制心の強さに影響するということが述べられています。親が過剰に干渉しない子どもたちは、おおむね高い自制心を持っているというのです。
このことからいえるのは、「もう宿題はやったの?」「歯は磨いたの?」「顔は洗ったの?」というように、子どもの行動の隅々にまで口を出してしまうと、自制心が育ちにくくなるということ。過度に干渉せずに子どもが自分自身で行う選択を見守り、自主性を持たせることが、子どもの自制心を育てるのです。
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非認知能力を伸ばすために親ができること
親としてはわが子に「非認知能力を伸ばしてほしい!」と願うのは当然ですよね。
では、「非認知能力」を伸ばすために親たちは一体何ができるのか。子どもたちにしてあげられることを見ていきましょう。
愛情をかける
「親の愛情」は子どもの非認知能力を伸ばすために重要です。
子どもは親からの愛情を感じることで、自分の気持ちに正直に生きることができ、「頑張ろう」「諦めずにやり抜こう」という忍耐力や前を向いて突き進む力を身に付けることができます。
以下は愛情をかける行動の一例です。
- 子どもが落ち込んでいたら励ましてあげる
- ミスをしても怒らずにまずは話をきいてあげる
- 不安を感じているときは支えてあげる
- 子どもを信用してあげる
これらのことを頭の片隅に置いて、愛情をもって子どものことを見守ってあげましょう。
子どもの興味や関心を大切にする
子どもが何かに心ひかれた時はその気持ちを大切にしてあげる事もまた、非認知能力を伸ばすために大事なことです。
好きなことや興味のあることなら誰でも意欲的に取り組みますし、集中力をもって根気強く続けることで、忍耐力や想像力をつけることができます。
親にとって、「なんでそんな事をしているの?」と思うような役に立たない行動からも、多くのことを吸収して成長していきます。
子どもが一生懸命何かに取り組んでいるときは、邪魔しないようにできる限りやらせてあげましょう。
子どもの気持ちに寄り添う
子どもの気持ちに寄り添い、共感することで非認知能力を伸ばすことができます。
子どもが嬉しいときは親も一緒に喜ぶ、反対に失敗してしまったときは落ち込んであげるというように喜怒哀楽を分かち合いましょう。
自分の気持ちを共感してもらえたことで、子どもはより一層やる気が出たり、自分で気持ちの整理ができるようになり、物事にうまく対処する能力が身につきます。
子どもの気持ちに共感してあげて、優しく寄り添ってあげてください。
自信をつけさせる
子ども自身が自分の能力に自信をつけることで、非認知能力を高めることができます。
自信がついた子どもは、「もっと上を目指したい!」「もっと上手くできる!」と意欲的になったり、粘り強く物事に打ち込むようになります。
子どもに自分を信じる力を持たせてあげるように、以下の点を意識してみましょう。
- 子どもの努力や姿勢を褒める
- 子どもの存在自体を喜び、感謝する
- 普段の生活で、成功を実感できる機会を作ってあげる
- 兄弟や他の人と比較しない
また、自信をつけることで心にゆとりができます。そうすると今度はコミュニケーションがうまく図れるようになるのです。
子どもの将来のために、日頃から自信を持つようにサポートしてあげましょう。
大人になってからも非認知能力は鍛えることができる
非認知能力を鍛えるタイミングとして幼少期の教育が注目されていますが、大人になってからでも非認知能力は伸ばすことができます。
社会に出てからも、自制心・忍耐力・社会的能力などの非認知能力は重要だと考えられており、さまざまな状況でその力を求められます。
では大人が非認知能力を伸ばすにはどうすればいいのか。普段の生活で出来る非認知能力の鍛え方を幾つかご紹介します。
プライベートで目標を設定する
仕事以外にもやりたい事を見つけ、目標を掲げて頑張ってみましょう。
資格取得のための勉強や趣味でやっているスポーツでも、目標達成のために懸命に努力することで非認知能力のひとつである「自制心」や「忍耐力」が鍛えられます。
短期的な目標ではなく中長期的に、日々のちょっとした努力で取り組めるものを目標にすることがおすすめです。
他人を巻き込んで物事に取り組む
自分だけではなく誰かと何か一つのことを一緒に作業することで、非認知能力の向上が期待できます。
旅行やキャンプなど何でもいので、他人任せではなく自らがプランを立て率先して行動してみましょう。
人との交流の時間を作って何かをやり遂げたり体験することで「創造性」や「社会的能力」が鍛えられます。
読書をする
非認知能力の向上につながる方法の一つに読書があります。
自己啓発やビジネスの書籍ではなくお勧めは小説です。小説を読むことで登場人物の考えや心情の変化を感じ取る事ができるようになり、他人の気持ちを理解する力が身につきます。
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非認知能力を高めるための家庭教育
いかがでしたか。前編・後編にわたってご紹介した「非認知能力」。
大人になってからでも非認知能力を伸ばすこともできますが、子どもの頃に非認知能力をつけることで、将来により良い影響を与えて充実した人生を歩むことができるのです。
非認知能力を高めるカギは、子どもの頃の家庭教育にあるといっても過言ではありません。適度な楽観主義と自主性を育むことでお子さんの非認知能力を高め、将来社会で活躍できる人に。今後のご家庭での教育に、ぜひお役立てください。